非経済的関心事に基づく制限措置について-パンデミック分野とりまとめ
問題意識
WTO体制においても、アフリカにおけるエボラ出血熱の流行など、地域的な感染爆発(パンデミック)が生じる事態は経験されてきたが、これによる輸出入への影響は限定的だった。しかし、2020年から世界的な流行を見せた新型コロナウイルスの発生は、WTO体制を中心とする今日の通商体制にとって、初めて経験するグローバルな感染拡大(パンデミック)である。
各国は感染症の拡大防止を目的に、様々な貿易制限措置を導入した。外国人の入国禁止、コロナ治療に用いる医療機器(PPE)やワクチン等の輸出制限、医療関連物資ではないものの、コロナによる世界的なサプライチェーンの混乱を危惧して自国への供給確保を目的とした穀物等の輸出規制措置が一部の加盟国で導入された。
この中には、ワクチンの輸出制限において特定国を優遇するなど、例外規定の濫用とみなされ得る措置も見られた。ワクチン配分のあり方については、WHOなど通商分野と異なったフォーラムで議論が進んでいるところであるが、通商ルールが規律する知的財産の保護とも密接に関連する問題でもある。
また、国内でのPPEやワクチン不足に対応するために必要な医療資源の研究開発や生産設備の拡大に、WTOの補助金協定(SCM協定)との整合性が問われ得る補助金が交付された。
さらに、パンデミック対策のカギを握るワクチンの配分では、グローバルなワクチンの衡平な配分を目的に、国際連合が主導してCOVAX等の国際ファシリティが設立された。
しかし、先進国が自国で生産されるワクチンの輸出制限や製薬会社との直接契約など、こうした国際ファシリティを介さないワクチンの調達方法を選択した結果、ワクチンの配分が先進国に偏る事態が生じた。
現行通商ルールが適切に各国の措置を規律して濫用を防止し、他方で各国が自国の感染症対策を十全に実施するために求める裁量を確保できたか、現行ルールを評価し、問題点を明らかにする必要がある。
上記の観点から、本研究会では次の3点について検討を行った
- 1.パンデミックをきっかけにとられた貿易制限措置にはどのようなものがあるか
- 2.上記措置は現行のWTOルール上どのように評価されるか。WTOルールは濫用を防止しつつ、各国に十全な感染対策を実施する裁量を与えていたか
- 3.ワクチン配分について通商ルールがどのように関連するか。WTOが果たすべき役割はあるか
非経済的関心事に基づく制限措置について-パンデミック分野とりまとめ