日イスラエル中堅・中小企業協業事例
(2020.11.8)
東朋テクノロジー株式会社
● 会社沿革
東朋テクノロジー株式会社(以下、東朋テクノロジー)は江戸時代後期に創業した洋繊維品・小間物小売業の「紅葉屋」を起源とし、1932年に前身である「東亜工業」が設立された。日立製作所の特約店となったことを足がかりにして、徐々に商社としての規模を拡大する。1969年には自動制御盤事業を開始し、製造業に参入した。2000年前後から海外市場の開拓にも注力。フラットパネルディスプレイ・半導体・発光ダイオード関連の製造装置・検査装置では、世界でトップシェアを誇る製品を有する。 東朋テクノロジーでは「創意躍動」の経営理念、および「計測・通信技術」のコア・コンピタンスをベースとして、日本ならびに海外の「ものづくり企業」の工場をメイン顧客に事業展開を行っている。
東朋テクノロジー株式会社 稲沢ものづくり開発本部
● 新規事業開発のパートナーとしてのイスラエル
東朋テクノロジーは、2000年頃から米国企業との協業を複数経験していた。日本の顧客ニーズに適した先端技術を米国から導入して自社でエンジニアリングし、日本の市場へ投入するスキームを、新規事業創出の方法として採用している。だが、今後の経営戦略を検討した際に、他社との差別化を図るべく、イスラエルのスタートアップエコシステムに着目した。2018年からイスラエル企業との協業を目的に、現地での技術探索を開始している。これは富田英之社長の存在によるところが大きい。富田社長は大学卒業後、大手商社に勤務し、国際ビジネスに従事していた。このときの経験が、東朋テクノロジーでの積極的な海外企業との協業にも影響を及ぼしていると考えられる。
顧客の声などから得られたビジネス課題をもってイスラエルに渡り、現地のビジネスパートナーにより提示された20~30社程度の候補企業・技術から、目的に合致したものを絞っていった。その中で、自社ビジネスとの親和性や相乗効果が見込める技術を有し、交渉相手としての熱意やアジア市場に対する意欲を感じられた企業として、コアティゴ社(CoreTigo)に注目する。同社とのパートナーシップを構築するにあたっては、日本のコンサルティング会社の支援も受けた。コアティゴ社は産業用無線の開発に強みを持つイスラエルのスタートアップで、世界ではじめて「無線IO-Link」※ の開発に成功した企業である。今回、東朋テクノロジーは、産業用ロボットを無線で制御するシステムを日本およびアジア市場で展開するパートナーシップ契約(Collaboration Agreement:協業契約)を獲得している。
東朋テクノロジーは、コアティゴ社の無線IO-Link機器を輸入し、そこに自社で長年培ってきたエンジニアリング技術を活用し、個々の顧客ニーズに沿って製品を改良していく。イスラエルの先端技術に自社の高度なエンジニアリングを追加することで、他社製品との差別化につなげているのだ。同社はもともと無線技術の知見を有していたため、自社ビジネスに対する補完性がある新技術を導入できたと言えよう。
コアディゴ社無線製品
※IO-Link: 工場現場におけるデジタル通信規格。国際規格で規定されている。工場内のロボットは通常、アクチュエータやセンサが制御装置と有線でつながっており、現場でのメンテナンスの手間、コストが問題となっている。工場におけるワイヤレス化は、通信断絶のリスクがあることや、リアルタイムな制御が難しいことなどから普及に至っていない。コアディゴ社のワイヤレス通信は、「切れない」「遅れない」ことが最大の特徴であり、産業用制御システムの改善が期待できる。
● イスラエル企業との交渉マインドセット
日本企業は総じて「まず、良いものを作る」という技術的な興味が前に出やすい。一方、イスラエル企業は「まず、売るためにはどうすれば良いか」というバックキャストの思考が強いため、この相違はすり合わせによって解決する必要がある。また、交渉ではスピード感のある意思決定が求められる。同社は、富田社長自らがイスラエルのスタートアップエコシステムに着目したという経緯があり、契約、協業にあたってのゴーサインが迅速に出やすかった。だが一般的に、日本企業側の規模が大きくなるほど、意思決定が複雑かつ遅延する可能性が高いため、スピード感を求めるイスラエルのスタートアップ企業にとっては、フラストレーションがたまる結果になるかもしれない。逆にいえば、トップダウンで意思決定が行える日本の中小企業などは、イスラエル企業との協業がしやすいのではないかと考えられる。
・ 江戸時代後期創業の小間物屋が起源、エンジニアリングに強みを持つ
中堅の産業機器メーカー
・ 米国での経験を活かし、顧客ニーズを集めてイスラエルで技術探索
・ ファミリー企業ならではの意思決定の速さで現地企業との交渉もスムーズに
● 今後の展望
今後については、現地のビジネスパートナーを通じて、イスラエルの先端技術を持つ複数の企業とも協業に向けた交渉を行っている。自社のビジネス課題に合致した現地企業・製品の候補を紹介してもらう際には、相手先の製品・技術が自社ビジネスと親和性があるか、導入により相乗効果がもたらされるかと言った点が重要となる。これにより、日本の顧客ニーズに沿った製品・技術の導入が行いやすくなるからだ。また、交渉相手の熱意、意欲も重要なポイントである。交渉にはじめからオーナーが登場するか、アジア市場の開拓を望んでいるかなど、相手の本気度を交渉、契約の過程で評価することも求められる。現在、パイプ・バルブ状態の監視システムを開発するフィールイット社(Feelit Technologies)や、脳波による画像識別システムを開発するインナーアイ社(InnerEye)といったスタートアップ企業との提携を進め、日本市場での展開を目指す。本格的な日本市場への導入はこれからだが、イスラエルから先端技術を取り入れたということ自体が、同社の営業活動におけるドアオープナーにもなっている。
コアティゴ社との連携
会社情報
会社名 |
東朋テクノロジー株式会社 |
代表取締役社長 |
富田 英之 |
設立 |
1932年10月 |
資本金 |
4億3000万円 |
従業員数 |
700名(グループ企業合計) |
住所 |
〒460-0008 愛知県名古屋市中区栄三丁目10番22号 |
電話番号 |
052-251-7211 |
Website |
編集: (一財)国際経済連携推進センター
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