日イスラエル中堅・中小企業協業事例
(2020.11.8)
アイティアクセス株式会社
● 会社沿革
アイティアクセス株式会社(以下、アイティアクセス)は、「すべての機器をネットにつなぐ」という世界観を実現する「株式会社ACCESS」と、技術商社という従来の枠組みを超え新たなビジネス領域へ挑戦し続ける「イノテック株式会社」から主たる資本を受け、2000年4月に設立された。IoT時代の本格的な到来に対応すべく、従来の単なるソフトのミドルウェアの提供やソフトウェアの受託開発の提供に留まらず、ハードウェア端末・サービスを含めたソリューション提供できる企業へと事業構造の改革を推進している。自社でのソフトウェアやハードウェア端末の開発及び関連サービスの提供のほか、海外の最先端のソフトウェアの販売代理店事業を拡大することで、両事業のシナジー効果を生み出している。
「ITで世界を楽しくする会社」をビジョンとし、1) CS事業部: ソフトウェア開発サービス、2) ADV事業部: 先端設計開発環境サービス (外資系ソフトウェアの代理販売事業含む)、3) FT事業部: クラウド型決済サービス、4) BT事業部: 美容向けクラウドサービスの4つの事業部から成る。従来外資系ソフトウェアの販売代理店事業をメインとしていたが、近年フィンテック事業が急拡大し、利益の大半を同事業が占めている。
・ イスラエル企業との協業経験10年
・ 技術力の高いイスラエル企業と補完性の高いパートナーシップを構築
・ フットワークの軽い組織体制、スピード感を持って海外企業との協業を進める
● イスラエル×自動運転×アイティアクセス
2019年10月、アイティアクセスはイスラエル企業コグナタ社(Cognata Ltd.)との協業を開始した。同社の先進的なADAS(先進運転支援システム)、自動運転向けのシュミレーション・ソフトウェアおよびソリューションを日本国内の自動車関連企業へ提供するために協業契約を締結した。
コグナタ社は2016年設立、資本金は2350万ドルで現在シリーズBのスタートアップ企業だ。同社のシミュレーション・ソフウェアによりマップや衛星画像からのデータをもとに実際の都市の詳細なデジタル地図を自動生成し、歩行者などの動的レイヤーを載せた仮想空間を作製することができる。パートナーとして米マイクロソフト社(Microsoft Corporation)や仏ダッソー・システムズ社(Dassault Systemes SE)等、関連企業との提携をグローバルに拡大している。2018年6月には、独アウディ社(Audi AG)の子会社で自動運転技術開発を手がけるAID社が提携を結んだことを発表しており、世界各地の都市を再現してシミュレートし、広範なテストを行うとしている。コグナタ社のソリューションにより、トレーニングから開発、試験までと言った自動運転のプロダクトライフサイクル全体におよぶシミュレーションの加速を実現する。
日本の自動車産業は、最先端のADAS機能を実用化でき、かつ、自動運転車両を大規模展開できるグローバルリーダーである。コグナタ社は、同社のソリューションを日本国内の自動車関連企業に提供し、日本でビジネスを広げたい考えだ。また、中国、韓国、日本を含むアジア展開のための一歩でもある。アイティアクセスの本業界での知名度や経験によってADAS/自動運転シミュレーションのリーディング企業であるコグナタ社のブランドを確立してくれる期待を示している。一方のアイティアクセスは、コグナタ社の自動車産業への包括的なソリューションがADAS/自動車運転の開発における設計、テスト、検証までをカバーしていることから、より早くより安全な市場展開を支援できるとしている。
● イスラエル企業との協業経験を活かす
アイティアクセスはコグナタ社の前に、10年前からビジュアリティ・システム社(Visuality Systems Ltd)というイスラエル企業と協業を開始しており、主にプリンター向けソフトウェア販売代理店事業を展開した。イスラエル企業との協業経験が既にあったこともあり、今回比較的スムーズに契約締結に至ったと言う。
今回のコグナタ社との協業の背景には、アイティアクセスの親会社であるイノテックの存在があった。同社で設計解析を行っている部門から、自動運転向けのシミュレーションを強みとするコグナタ社の名前が挙がったことをきっかけとして、先行してイノテックのリサーチ部門で調査および協業のアプローチを行ったのである。だが、グループ内でソフトウェア事業はアイティアクセスの事業として区分されていることから、結果として、協業検討プロセスの途中段階よりアイティアクセスが主導して進める形になった。最終的に、コグナタ社と協業検討の話を進めていく上で、自社として狙いたい自動車業界に提案できる具体的なイメージがついたことが協業の決め手である。
協業形態としては、両社は販売代理店契約を締結している。アイティアクセスは、コグナタ社の提供するソフトウェアの代理販売およびエンジニアリングサービスやサポートも提供する、ソリューションパートナーという位置づけだ。同社は、コグナタ社の技術力の高さを非常に評価しており、自社のエンジニアがコグナタ社のエンジニアと交流することで、最先端の技術を習得できると期待している。また同社の販売ネットワークを活かし、主に日本国内の自動運転関連企業に対してコグナタ社のシミュレーションソフトを販売する他、自社のソフトウェアやサービスを併せて販売することを目指している。
昨年末からスタートしたコグナタ社との協業は、足元は新型コロナウイルスの影響により日本国内で積極的な営業ができていないため、当初の計画よりは立ち遅れている。だが、今後はコグナタ社の社員にイスラエルから来日してもらい、一緒にターゲット顧客への積極的な売り込みを行いたい考えだ。コグナタ社の先進的なシミュレーション技術に加えて、同社の海外における提携実績が増えるにつれて日本国内のターゲット顧客への展開も加速すると期待している。
● 自社事業との補完性
アイティアクセスは、かねてより自動運転関連企業へのソフトウェア開発事業を展開したいと考えており、既存事業において日本国内のネットワークを構築してきた。コグナタ社との協業を通じて、同社の技術力の高い製品を売りとしてターゲット企業にアプローチし、併せて自社のビジネスにも繋げたいという狙いがあり、相互の利益にとって補完性の高いパートナーであると言える。また、技術力の高さで注目されるイスラエル企業の製品を扱うことで、顧客への営業機会の拡大につなげたいと考えている。
ただ将来に対する懸念がないわけでもない。コグナタ社は海外でも大手グローバル企業を含めたパートナー契約を拡大させている。また、自動運転は世界的に注目を集めている分野である。将来的には、同社が大手に買収される可能性もあると考えるが、アイティアクセスは、自社にはコントロールできないリスクだと認識している。
イスラエル企業はスピード感があり、行動力に長けている印象があるゆえ、協業にあたってはパートナーとして付いていくタフさが必要になる。常に情報のアンテナを貼り、スタートアップ企業である協業先の技術等の情報をいち早く入手し、自社のビジネスとの親和性や相乗効果を期待できるか精査すること。イスラエル企業は良い意味でも悪い意味でも非常にアグレッシブで交渉力も高いため、自社の技術や相手先へのメリットを提示し、友好的なビジネスパートナーとなり得ることをアピールすることが重要である。これまでの米国やイスラエル企業との協業実績を活かし、交渉プロセスや相手先のスタンスなどに柔軟に対応することが、スムーズな契約締結に至る秘訣だ。
コグナタ社の自動運転シミュレーション画像
会社情報
会社名 |
アイティアクセス株式会社 |
代表取締役社長 |
高橋 尚 |
設立 |
2000年 |
資本金 |
2億円 |
従業員数 |
82名(2020年9月1日現在、役員除く) |
住所 |
〒222-0033 神奈川県横浜市港北区新横浜3-17-6 |
電話番号 |
045-474-9095 |
Website |
編集: (一財)国際経済連携推進センター
← 一覧に戻る →Next
全文
<関連リンク>