(7) 新型コロナ危機と国際社会の脱中国の可能性
掲載日:2020年5月25日
公益財団法人 東京財団政策研究所 主席研究員
柯 隆
歴史家によると、人類の歴史はウイルスとの闘いの歴史といわれている。最近読んだ19世紀と20世紀初頭の中国の本によると、かなり短い周期でウイルスの感染症が発生していたとある。猩紅熱はその一つだった。調べたら、抗生物質(ペニシリン類)が開発されるまで、その致死率は8割に達していたといわれている。
これまでの100年間、近代医学は目覚ましい発展を成し遂げた。とくに抗生物質が開発されたことによって、たいていのウイルス感染症が治療できるようになった。それでも人類によって認識されているウイルスの種類は、実際に地球上に存在するウイルスの種類と比べてもごくわずかしかない。科学者は常に未知の領域に挑み、それを解明しようとする人種である。
新型コロナウイルスの発生源
新型コロナウイルスの発生源はいまだに謎のままである。2020年1月の段階で、中国の武漢市にある海鮮市場が新型コロナウイルスの震源地の可能性があるといわれていた。要するに、中国人は野生動物を食べる習慣があり、この海鮮市場で野生動物が売られ、ウイルスは野生動物から人間に感染し、そのあと、人から人へと感染が拡大したというわかりやすい説である。そのとき、「犯人」としてもっとも疑われた動物はコウモリと竹ネズミと蛇だった。
しかし、科学的な知識がなくても、多少の常識さえあればわかるように、この3種類は、いずれも冬眠する動物であり、武漢市の周りの山林で捕獲できないものである。したがって、この説はガセネタである。それでも、そのあと、中国政府は野生動物の取引を禁止する条例を制定し、発布した。むろん、中国は法治国家ではなく、法律が発布されても、守られないことが多い。なによりも、野生動物を食用する習慣は一つの条例で改められるものとは思わない。
現在、中国では、新型コロナウイルスの感染がほぼコントロールできた。韓国も同じ状況にある。日本は2か月にわたる外出自粛要請の結果、すでに出口が見えてきた。欧米諸国でも新規感染者数と死亡者数のいずれも減少していることから、感染はピークアウトしつつあると判断される。
状況の好転を受けて、これからこのウイルスがどこから来たのか、なぜここまで感染が拡大したのか、を明らかにしなければならない。とくにウイルス起源の解明は科学者の仕事である。感染拡大をもたらした原因について、組織論的に検証する必要がある。ここで指摘しておきたいのは、2019年12月最初に感染例が報告されたのを受けて、中国政府の初動が大幅に遅れたため、ウイルスの感染が中国全土に広がった。武漢市の総人口は1100万人といわれている。1月23日、武漢市が封鎖される前に、500万人は春節の長期休暇を利用して里帰りや旅行に出かけ、武漢を離れた。ウイルスは人間によって運ばれて広がるものである。
国際機関改革と国際協調の必要性
そして、世界保健機関(WHO)は、中国で新型コロナウイルスの感染例がすでにたくさん報告されたにもかかわらず、緊急事態宣言を遅々として出さなかった。日本やアメリカは中国からの旅行客の入国制限を決めたとき、WHOは過剰反応と批判した。新型コロナウイルスの感染が全世界に拡大したのはWHOに責任があるといわざるを得ない。ちなみに、WHOはウイルスなどの感染拡大を防ぐ防波堤の役割を果たす国際機関のはずだが、今回の危機においてまったく機能していない。国際社会において国際機関に対するガバナンスをいかに強化するか、あらためて考えなければならない。
最後に、このまま新型コロナウイルスが消えることは考えにくい。それを封じ込めるには、ワクチンと特効薬の開発を急がないといけない。そのためには、新型コロナウイルスの起源を解明する必要がある。これらの作業は国際社会の協力が必要である。
次に新型コロナ危機による経済への影響である。今回の危機は、第2次世界大戦以来の危機といわれている。しかし、第2次世界大戦は北米も南米も戦火に見舞われることがなかった。今回は、南極以外、すべての大陸が陥落してしまった。
中国経済の再建
中国は先にトンネルを抜け出したが、経済の再建は中国単独ではできない。なぜならば、世界経済はすでにグローバル化されているからである。現に中国のほとんどの工場は再稼働しているが、海外からの注文をもらえないため、フル稼働にすることができない。春節の際、都市部に出稼ぎをする農民工は農村へ帰郷した。新型コロナウイルスの感染が抑えられてから、彼らは一旦都市部へ戻ったが、仕事がないため、相当数の農民工は再び農村に帰らざるを得なかった。
中国政府が公表した公式経済統計によると、第1四半期の実質GDP伸び率は-6.8%だったといわれている。未経験の落ち込みだったが、実際は公式統計よりももっと大きな落ち込みだったと思われる。また、公式統計では4月の失業率は6%だった。それまでの5%前後の失業率に比べ、いくらか上昇した。しかし、中国国内にある中泰証券研究所の推計によると、実際の失業者は7000万人増え、失業率は20.5%に達している可能性があるといわれている。公式統計よりも、中泰証券研究所の推計は体感温度に近い。
ただし、中国経済にとって一つプラスのファクターがある。それは、中国の貯蓄率が主要国のなかでもっとも高いことである。中国の家計の貯蓄率は30%にのぼるとみられている。政府部門の貯蓄を含めれば、44%に達しているといわれている。一般的に、経済危機のとき、貯蓄率の高い国はほかより早く立ち直ることができる。
問題は、中国経済の構造上の歪みが経済再建を妨げると考えられていることにある。そもそも経済とは、ヒトの流れ、モノの流れとカネの流れからなっている。新型コロナ危機により、ヒトの流れが遮断された。今、ウイルスの感染が克服されたが、ヒトの流れがまだ本調子ではない。モノの流れは都市がロックダウンされたとき、物流が寸断された。今、中国国内の物流は回復しているが、主要国では、ウイルスの感染が完全に終息していないため、国際物流が完全に回復するには、まだ時間がかかる。
経済政策のあり方
中国政府は経済を再建するために、金融緩和政策を実施している。人民銀行(中央銀行)は預金準備率を引き下げ、公開市場操作を実施し、市中銀行(ほとんどは国有銀行)に対して流動性を大量に供給している。中国では、もっとも資金繰りに困っているのは中小企業であり、そのほとんどは民営企業である。国有企業(ほとんどは大企業)は政府のバックアップがあって、国有銀行から資金供給を受けている。中国には、日本の中小企業信用保証制度のようなものが整備されていない。その結果、いくら人民銀行は金融緩和を実施しても、中小民営企業の資金難問題が改善されない。
一方、教科書的に緊急時に財政政策が有効であるといわれている。2009年、リーマンショックのとき、中国政府はその影響を警戒して、4兆元(当時の為替レートでは約56兆円)の財政出動を行った。しかし、今回の新型コロナ危機に対して、今のところ、大規模な財政出動が行われていない。なぜならば、10年前に比べれば、今、中国政府の財源はそれほど潤沢ではないからである。
IIF(Institute of International Finance)の調べによると、中国の中央政府、地方政府、国有銀行と国有企業の債務総額はGDP比、303%に達しているといわれている。要するに、中国政府の財力からして、大規模な財政政策を実施する余力がそれほどないということである。結論的にいえば、中国経済は政府の経済政策によって回復するよりも、その自力で回復することになる。
脱中国の動き
これから心配されるのは、国際社会における脱中国の動きである。上で述べたように、これから国際社会は新型コロナウイルスの発生源の調査に乗り出すだろう。そして、ウイルスの感染が拡大してしまった責任は中国にあると考えられる。その責任も追及される。中国政府は責任が追及されるのを心配して、WHOへの資金拠出を増やしたり、マスクの輸出を中心とするマスク外交を行ったりしている。同時に、ウイルス発生源の調査を主張するオーストラリアなどに対して、牛肉の輸入を差し止めたりするなどの経済制裁を科している。しかし、こういった強硬措置は逆効果であり、中国のイメージダウンをもたらしている。こうした動きは国際社会の脱中国に拍車をかけている。
最近、経営学者たちが指摘しているのは、多国籍企業は生産ラインを中国以外の新興国に移転させる可能性である。これについて、詳しい分析が必要である。そもそも企業経営の基本は利益を最大化することである。多国籍企業にとって中国での投資収益を圧迫する要因はコスト、とりわけ人件費の上昇である。しかし、国際協力銀行のアンケート調査によると、49.9%の日本企業は中国でのビジネスを強化すると答えている。そのやり方はファクトリーオートメーション(FA=自動化)を進めることである(国際協力銀行「わが国製造業企業の海外事業展開に関する調査報告」2019年)。
外国企業が中国を離れないのは、完ぺきに整備されている物流インフラ、豊富かつトレーニングされている労働者、デジタル化されている通関システムの3点に加え、2019年中国の一人当たりGDPが1万ドルを超え、中国が有望な消費市場になりつつあることである。繰り返しになるが、人件費上昇のデメリットは生産ラインの自動化によって克服することができる。
むろん、新型コロナ危機がいくつかの警鐘を鳴らしているのは事実である。グローバルサプライチェーンの安定供給を維持するために、キーコンポーネント(基幹部品)の製造を中国以外の新興国に分散する必要がある。そして、新型コロナ危機をきっかけに判明されたことだが、医療用マスク、防護服、人工呼吸器などの戦略物資は外国からの輸入に依存することの危険性である。これから多国籍企業はキーコンポーネントの生産ラインを分散させる可能性があり、先進国を中心に、戦略物資の安定供給を図っていくものと思われる。しかし、このような動きは本格的な脱中国を意味するものではない。
それよりも、中国経済が成長を持続していくには、国内の経済構造と産業構造の歪みを是正していかなければならない。具体的にいえば、産業構造を高度化していくことに加え、国有企業に代わって、民営企業の伸長を助けていかなければならない。中国は本物の市場経済に脱皮するか、統制経済に逆戻りするかの分水嶺に差し掛かっている。
公益財団法人 東京財団政策研究所 主席研究員
柯 隆
歴史家によると、人類の歴史はウイルスとの闘いの歴史といわれている。最近読んだ19世紀と20世紀初頭の中国の本によると、かなり短い周期でウイルスの感染症が発生していたとある。猩紅熱はその一つだった。調べたら、抗生物質(ペニシリン類)が開発されるまで、その致死率は8割に達していたといわれている。
これまでの100年間、近代医学は目覚ましい発展を成し遂げた。とくに抗生物質が開発されたことによって、たいていのウイルス感染症が治療できるようになった。それでも人類によって認識されているウイルスの種類は、実際に地球上に存在するウイルスの種類と比べてもごくわずかしかない。科学者は常に未知の領域に挑み、それを解明しようとする人種である。
新型コロナウイルスの発生源
新型コロナウイルスの発生源はいまだに謎のままである。2020年1月の段階で、中国の武漢市にある海鮮市場が新型コロナウイルスの震源地の可能性があるといわれていた。要するに、中国人は野生動物を食べる習慣があり、この海鮮市場で野生動物が売られ、ウイルスは野生動物から人間に感染し、そのあと、人から人へと感染が拡大したというわかりやすい説である。そのとき、「犯人」としてもっとも疑われた動物はコウモリと竹ネズミと蛇だった。
しかし、科学的な知識がなくても、多少の常識さえあればわかるように、この3種類は、いずれも冬眠する動物であり、武漢市の周りの山林で捕獲できないものである。したがって、この説はガセネタである。それでも、そのあと、中国政府は野生動物の取引を禁止する条例を制定し、発布した。むろん、中国は法治国家ではなく、法律が発布されても、守られないことが多い。なによりも、野生動物を食用する習慣は一つの条例で改められるものとは思わない。
現在、中国では、新型コロナウイルスの感染がほぼコントロールできた。韓国も同じ状況にある。日本は2か月にわたる外出自粛要請の結果、すでに出口が見えてきた。欧米諸国でも新規感染者数と死亡者数のいずれも減少していることから、感染はピークアウトしつつあると判断される。
状況の好転を受けて、これからこのウイルスがどこから来たのか、なぜここまで感染が拡大したのか、を明らかにしなければならない。とくにウイルス起源の解明は科学者の仕事である。感染拡大をもたらした原因について、組織論的に検証する必要がある。ここで指摘しておきたいのは、2019年12月最初に感染例が報告されたのを受けて、中国政府の初動が大幅に遅れたため、ウイルスの感染が中国全土に広がった。武漢市の総人口は1100万人といわれている。1月23日、武漢市が封鎖される前に、500万人は春節の長期休暇を利用して里帰りや旅行に出かけ、武漢を離れた。ウイルスは人間によって運ばれて広がるものである。
国際機関改革と国際協調の必要性
そして、世界保健機関(WHO)は、中国で新型コロナウイルスの感染例がすでにたくさん報告されたにもかかわらず、緊急事態宣言を遅々として出さなかった。日本やアメリカは中国からの旅行客の入国制限を決めたとき、WHOは過剰反応と批判した。新型コロナウイルスの感染が全世界に拡大したのはWHOに責任があるといわざるを得ない。ちなみに、WHOはウイルスなどの感染拡大を防ぐ防波堤の役割を果たす国際機関のはずだが、今回の危機においてまったく機能していない。国際社会において国際機関に対するガバナンスをいかに強化するか、あらためて考えなければならない。
最後に、このまま新型コロナウイルスが消えることは考えにくい。それを封じ込めるには、ワクチンと特効薬の開発を急がないといけない。そのためには、新型コロナウイルスの起源を解明する必要がある。これらの作業は国際社会の協力が必要である。
次に新型コロナ危機による経済への影響である。今回の危機は、第2次世界大戦以来の危機といわれている。しかし、第2次世界大戦は北米も南米も戦火に見舞われることがなかった。今回は、南極以外、すべての大陸が陥落してしまった。
中国経済の再建
中国は先にトンネルを抜け出したが、経済の再建は中国単独ではできない。なぜならば、世界経済はすでにグローバル化されているからである。現に中国のほとんどの工場は再稼働しているが、海外からの注文をもらえないため、フル稼働にすることができない。春節の際、都市部に出稼ぎをする農民工は農村へ帰郷した。新型コロナウイルスの感染が抑えられてから、彼らは一旦都市部へ戻ったが、仕事がないため、相当数の農民工は再び農村に帰らざるを得なかった。
中国政府が公表した公式経済統計によると、第1四半期の実質GDP伸び率は-6.8%だったといわれている。未経験の落ち込みだったが、実際は公式統計よりももっと大きな落ち込みだったと思われる。また、公式統計では4月の失業率は6%だった。それまでの5%前後の失業率に比べ、いくらか上昇した。しかし、中国国内にある中泰証券研究所の推計によると、実際の失業者は7000万人増え、失業率は20.5%に達している可能性があるといわれている。公式統計よりも、中泰証券研究所の推計は体感温度に近い。
ただし、中国経済にとって一つプラスのファクターがある。それは、中国の貯蓄率が主要国のなかでもっとも高いことである。中国の家計の貯蓄率は30%にのぼるとみられている。政府部門の貯蓄を含めれば、44%に達しているといわれている。一般的に、経済危機のとき、貯蓄率の高い国はほかより早く立ち直ることができる。
問題は、中国経済の構造上の歪みが経済再建を妨げると考えられていることにある。そもそも経済とは、ヒトの流れ、モノの流れとカネの流れからなっている。新型コロナ危機により、ヒトの流れが遮断された。今、ウイルスの感染が克服されたが、ヒトの流れがまだ本調子ではない。モノの流れは都市がロックダウンされたとき、物流が寸断された。今、中国国内の物流は回復しているが、主要国では、ウイルスの感染が完全に終息していないため、国際物流が完全に回復するには、まだ時間がかかる。
経済政策のあり方
中国政府は経済を再建するために、金融緩和政策を実施している。人民銀行(中央銀行)は預金準備率を引き下げ、公開市場操作を実施し、市中銀行(ほとんどは国有銀行)に対して流動性を大量に供給している。中国では、もっとも資金繰りに困っているのは中小企業であり、そのほとんどは民営企業である。国有企業(ほとんどは大企業)は政府のバックアップがあって、国有銀行から資金供給を受けている。中国には、日本の中小企業信用保証制度のようなものが整備されていない。その結果、いくら人民銀行は金融緩和を実施しても、中小民営企業の資金難問題が改善されない。
一方、教科書的に緊急時に財政政策が有効であるといわれている。2009年、リーマンショックのとき、中国政府はその影響を警戒して、4兆元(当時の為替レートでは約56兆円)の財政出動を行った。しかし、今回の新型コロナ危機に対して、今のところ、大規模な財政出動が行われていない。なぜならば、10年前に比べれば、今、中国政府の財源はそれほど潤沢ではないからである。
IIF(Institute of International Finance)の調べによると、中国の中央政府、地方政府、国有銀行と国有企業の債務総額はGDP比、303%に達しているといわれている。要するに、中国政府の財力からして、大規模な財政政策を実施する余力がそれほどないということである。結論的にいえば、中国経済は政府の経済政策によって回復するよりも、その自力で回復することになる。
脱中国の動き
これから心配されるのは、国際社会における脱中国の動きである。上で述べたように、これから国際社会は新型コロナウイルスの発生源の調査に乗り出すだろう。そして、ウイルスの感染が拡大してしまった責任は中国にあると考えられる。その責任も追及される。中国政府は責任が追及されるのを心配して、WHOへの資金拠出を増やしたり、マスクの輸出を中心とするマスク外交を行ったりしている。同時に、ウイルス発生源の調査を主張するオーストラリアなどに対して、牛肉の輸入を差し止めたりするなどの経済制裁を科している。しかし、こういった強硬措置は逆効果であり、中国のイメージダウンをもたらしている。こうした動きは国際社会の脱中国に拍車をかけている。
最近、経営学者たちが指摘しているのは、多国籍企業は生産ラインを中国以外の新興国に移転させる可能性である。これについて、詳しい分析が必要である。そもそも企業経営の基本は利益を最大化することである。多国籍企業にとって中国での投資収益を圧迫する要因はコスト、とりわけ人件費の上昇である。しかし、国際協力銀行のアンケート調査によると、49.9%の日本企業は中国でのビジネスを強化すると答えている。そのやり方はファクトリーオートメーション(FA=自動化)を進めることである(国際協力銀行「わが国製造業企業の海外事業展開に関する調査報告」2019年)。
外国企業が中国を離れないのは、完ぺきに整備されている物流インフラ、豊富かつトレーニングされている労働者、デジタル化されている通関システムの3点に加え、2019年中国の一人当たりGDPが1万ドルを超え、中国が有望な消費市場になりつつあることである。繰り返しになるが、人件費上昇のデメリットは生産ラインの自動化によって克服することができる。
むろん、新型コロナ危機がいくつかの警鐘を鳴らしているのは事実である。グローバルサプライチェーンの安定供給を維持するために、キーコンポーネント(基幹部品)の製造を中国以外の新興国に分散する必要がある。そして、新型コロナ危機をきっかけに判明されたことだが、医療用マスク、防護服、人工呼吸器などの戦略物資は外国からの輸入に依存することの危険性である。これから多国籍企業はキーコンポーネントの生産ラインを分散させる可能性があり、先進国を中心に、戦略物資の安定供給を図っていくものと思われる。しかし、このような動きは本格的な脱中国を意味するものではない。
それよりも、中国経済が成長を持続していくには、国内の経済構造と産業構造の歪みを是正していかなければならない。具体的にいえば、産業構造を高度化していくことに加え、国有企業に代わって、民営企業の伸長を助けていかなければならない。中国は本物の市場経済に脱皮するか、統制経済に逆戻りするかの分水嶺に差し掛かっている。